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説明 |
-----Original Message----- 私は、現在、合金(Pb-Sn)の実験をしています。合金は一般に構成金属より融点(凝固点)が下がるのはなぜなのでしょうか? ----- unquote -----
一言で言ってしまえば、混合物の溶融体は、純粋物質の溶融 体よりもエントロピーが大きいので、混合物の溶融体の生成自 由エネルギーΔG(liq)が小さくなり、結果として融点が下がるん です。
これでは、これではあんまりかもしれないので、少し熱力学的に 解説を試みてみましょうか。まず、表面や界面のエネルギーは 考えずに、液体バルクの物性のみを考えます。だから、ミセル だとか、牛乳みたいなコロイド状態はここでは考えません。
まず最初に、固体側の生成自由エネルギーΔG(solid)と液体側 の生成自由エネルギーΔG(liq)は温度の関数となりますが、融 点はどういう温度で起こるかというと、ΔG(solid)=ΔG(liq)になっ たところで起こるわけで、それよりも低温側ではΔG(solid)<ΔG(liq) であるために固体となっていて、高温側ではΔG(solid)>ΔG(liq)な ために液体になっています。だから、混合によりΔG(liq)が小さくな れば、ΔG(solid)=ΔG(liq)になる温度も下がるので、融点が下が るんです。
ここで、液体がまったく混じらない、水と油のようなものを想定し ましょう。aという物質のモル分率をXa、bという物質のモル分率 をXbとします。純粋物質の固体側も固溶体は作らないとしましょ う。この場合、aもbも、固体、液体共に純粋物質と同じ状況なわ けですから、融点はそれぞれの純粋物質の融点と同じになりま す。このときの溶融体の体積は、a, bそれぞれのモル体積をVa, Vbとすると、aについては、XaVa, bについてはXbVbになります。 これが混じらずに分離している状態にあるわけです。この状態で は溶融体のaはXaVaという体積に閉じ込められ、溶融体のbは XbVbという体積に閉じ込められています。この状態の溶融体全 体の自由エネルギーは以下のように記述できます。
ΔG(sep)=XaΔGao(liq) + XbΔGbo(liq)
ここで、ΔGao(liq)はaの純粋物質のときの溶融体の生成自由 エネルギー、ΔGbo(liq)はbの純粋物質のときの溶融体の生成 自由エネルギーです。
では、溶融体のaとbが互いに自由に交じり合ってしまうとどうな るでしょうか?ここでは、話を簡単にするために理想溶液を仮定 しましょう。そうすると、混合に伴うエンタルピー変化ΔHは0にな り、混合の前後で全体積も変化しません。そのかわり、aもbも全 体積XaVa+XbVbの中を自由に動き回れることになります。この ことは、完全に混合してしまう溶融体では、各成分が自由に動き 回れる体積が増加することになるので、エントロピーが増加しま す。すなわち、混合によってエントロピーは増大します。この増大 したエントロピーの分だけ、自由エネルギーが減少し、それだけ 混合したほうが安定になるというわけです。結果だけ書くと、以下 のようになります。
ΔG(sol)=Xa[ΔGao(liq) + RT ln Xa] + Xb[ΔGbo(liq) + RT ln Xb]
自由に混合することにより、XaRT ln Xa + XbRT ln Xbだけエネ ルギーが加算されます。しかし、0だから、対数項はどれも負の値となるので、この対数項の分だけ、 混合によりΔGは減少し、安定化されることがわかります。このた め、混合により融点が下がるんです。
エントロピーってすごいですねぇ。
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