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仁科辰夫教授 最終講義 2023.3.17 米沢キャンパス中示A

【ナレッジ】 無機固体の半導体と原子価制御

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題目無機固体の半導体と原子価制御
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説明
無機固体の半導体と原子価制御

 p型半導体
 酸化ニッケル(NiO)  NaCl型構造抹茶のような緑色の固体
   Niの電子配置は[Ar]4s23d8
   これがイオンなるときには4s電子から先に失われて
   Ni2[Ar]4s03d8なる(通常3d軌道に5個以上電子持つ
   元素Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Znは同じ理由で2+イオンなりやすい)
   理想的な組成のNiOは電子動けないので絶縁体ある

   Niは2状態ほかに3状態もいくぶん安定にとりうる
   現実の酸化ニッケル中ではすべてのNiが2価なのではなく1000個に1個程度の割合で3価になっているものがあるすなわちただしくはNi1-xO (x≒0.001)表わされる
☆このようにイオンイオン比が単純な整数比にならない化合物非化学量論化合物または不定比化合物(non-stoichiometric compound)いう
   たとえ不定比化合物あっても電荷総和必ずゼロなくてはならないこれは物共通
  酸化ニッケル構造不定比強調して描くと右図のようになる
     
    すなわちNi3個できるごとにNi空孔1個できる
    そのようになれば電荷総和ゼロ保たれる
    現実の酸化ニッケル組成イオン電荷空孔まで考慮して
    表現するとNi2+1-3xNi3+2x□xO2- なる←重要

  ころでNi3イオンつねに3+状態留まっている必要はないNi2Ni3混在すると



いうようにイオンそのものの位置は変わらないままで電子Ni2からNi3移動きるようになる
上の図で電子が左から右に移動するとNi3状態右から左に移動するこれによって電気が流れる
 このような電子の移動はp型半導体それと同じである従って酸化ニッケルp型半導体ある

酸化ニッケル電気的性質
 Ni2イオン半径0.83Ni3イオン半径0.74ÅであるNi3イオン小さいので周囲の酸素がNi3方向位置ずらしている右図
  右図のNi3イオンよそから電子が移ってくるときには
 周囲の酸素酸化物イオンまたもとの場所に戻らなくては
 ならないすなわち電子移動起こるたびに酸化物イオン
 わざわざ位置ずらしたり戻ったりする必要がある
  1)そのためNi2⇔Ni3間の電子移動それほど容易では
 なく酸化ニッケル導電率極めて低い室温10-6Sm-1程度
  ただし温度高くなると原子の熱振動が活発になるので酸化物イオン位置移動容易になり
 導電率大きく上昇する関連の内容は後述

 原子価制御 (valency control)
 酸化ニッケル半導体あるが導電率極めて低いこの導電率制御する方法がある
 酸化ニッケル中のケルリチウム置換する具体的には酸化ニッケル酸化リチウム粉末混合空気中で1000℃以上で加熱してLiイオン酸化ニッケル中に拡散させるLiイオンNiOの結晶格子の中に組込まれる現象固溶いう
   Ni20.83Li0.88LiNi2サイズそれほど違わないので置換することができる
 ここ酸化ニッケル不定比無視して考えることにする(1-2x)モルNiOとxモルLi2Oの混合物空気中で加熱すると


              


       

 上図のようにLiイオン2個NiO結晶格子に組み入れられるごとにNi3イオン2個できる
 これはもとのNiOのイオンイオン不定比無視あるためその比守りつつ電荷総和ゼロ保とうとする傾向の結果であるこの過程の化学反応式は以下のようになる

 (上の過程は酸化リチウム酸化ニッケル加える操作であるが見方変えるとリチウムケル置換する操作と考えることもできる
 上の操作はLiイオン固溶することによってNi2Ni3変化させていることになるこのようにして異種イオン固溶することによってもとの物質の構成イオン酸化数変化させること原子価制御いう本当は酸化数制御とでも言うべきであるが古い言葉がそのまま定着しているLiイオンNi2イオン15%程度まで置換させることができるすなわち自然発生する不定比ではNi31000分の1程度しかないのに対し原子価制御方法よりNi3濃度飛躍的に高めることができるようになる

  原子価制御効果
   LiなしのNiOの導電率室温10-6Sm-1
   Li:Ni=15:85酸化ニッケル固溶体導電率室温103Sm-19桁上昇する
補足Li代わりに同じアルカリ金属NaK用いようとしてもイオンサイズ異なるので
     固溶しない→原子価制御には有効ではない
    AlドープしたSiのような外因性半導体場合には温度高くなると「電荷担体の濃度が増
     える」ことによって導電率が上昇するしかし酸化ニッケル場合には電荷担体濃度温度
     よらず定であり温度高くなると電荷担体動きやすさ移動度高くなることにより
     導電率上昇する
    NiOの他にも番安定な酸化数よりもひとつ高い酸化数でもまずまず安定な金属の酸化物
     p型半導体なり原子価制御可能括弧内は固溶イオン例えばCoO(Li)MnO(Li)
     Bi2O3(Ba2)Cr2O3(Mg2)など

 p型無機固体特に酸化物応用例
   温度上昇伴って比抵抗が大きく変化する物質サーミスター(Thermistor)いう p型半導体導電率温度対して非常に敏感である例えば温度が50℃上昇すると比抵抗が10分の1なるいうようにそこで右図のようにp型半導体酸化物直流電源電流計つなげば温度電流読み替えて検知することが可能になる→非常に精密な温度計
しかも極めて小さい領域の温度計測きる
電子体温計電子レンジ炊飯器冷蔵庫エアコンコピー機ウォシュレットなどの温度管理など
   自動車ガソリンタンク液面センサガソリン不足になると点灯する警告ランプ原理
    ①p型半導体常に定電圧かけておくジュール熱で加熱される③やがてジュール熱と放熱
     釣り合って定温度定電流ころに落着く
    センサガソリン中にあれば放熱量が大きいから低い温度で落着く電流も低いしかしガソリ
    減ってきてセンサ空気中に顔出すと放熱が少なくなって高い温度で落着く電流高い
    定電流越えたら警告ランプ点灯するような回路組込んだものが自動車についている

 n型半導体
 酸化亜鉛(ZnO)  ウルツ鉱型構造(陰イオン方際密充填
             中の4配位サイト1/2イオン
             入っている構造)
             白色で白の絵の具の顔料やベビーパウダー
             も使われる

   Znの電子配置は[Ar]4s23d10Zn2[Ar]4s03d10
   理想的なZnOは絶縁体
   ZnOもNiO同様不定比化合物だがNiOと異なるのは
   Znが酸素よりも過剰なこと中性亜鉛原子4配位
   サイトまたは6配位サイト入っている(4配位サイト
   残り半分と6配位サイト全部が空いている)
   したがって酸化亜鉛組成不定比考慮して書けば
    Zn1+xO (x≒10-6)なる
   中性Zn原子は
     Zn Zn + e-  Zn2 + 2e-
   ように自らがイオンなる代わりに電子放出それらの電子が結晶構造内移動する
   従って不定比な酸化亜鉛はn型半導体ある中性亜鉛原子1個の電子放出しているという前
   提に立ってイオン電荷考慮した化学式書くとZn21-xZn2xO2-なる(電荷の総和がゼロ
   あること確かめよ)

☆酸化亜鉛の電気的性質
  不定比組成(x≒10-6)酸化亜鉛導電率室温10-1Sm-1程度NiOよりも不定比の度合いが小さい
 もかかわらず導電率高いこれは伝導電子(Zn2イオン付け加えられるもう1個の電子)がZnの
 4s軌道に入るためである4s軌道は空間的に大きく広がっているので隣り合ったZnどうしの4s軌道
 互いに重なり合っているそのため電子移動容易に起こるNiOの場合には正孔(Ni3状態)
 移動するたびごとに酸化物イオンわざわざ位置ずらす必要があったがZnOではその必要がないことが
 高い導電率の原因になっている付け加えるとZnOも半導体なので高温ほど導電率が高くなるがその度
 合いはNiOに比べて小さい

 n型半導体原子価制御
 2)p型のNiOの場合には電荷ひとつ小さいLi固溶すれば導電率が上昇したn型半導体場合に
  電荷ひとつ大きなイオン有効になる
 酸化亜鉛中の亜鉛アルミニウム置換する具体的には酸化亜鉛酸化アルミニウム混合粉末 
  1000℃以上の温度で加熱するこの操作によりAl3イオンZnOの結晶格子の中に拡散固溶
  ZnOの不定比無視して考え(1-2x)モルZnOとxモルAl2O3反応させると
      


                                          



 上図のように2個のAl3イオンZnO結晶格子に組込まれるごとに2個の伝導電子結晶中に生成する反応前後とも電荷の総和がゼロあること確認することこれはもとのZnOのイオンイオン1:1不定比は無視あるためそれ守りつつ電荷の総和もゼロ保とうとする傾向の結果である上の過程の化学反応式は以下のようになる

(上の過程はZnOにAl2O3加える操作であるが見方変えるとAl3Zn2置換する操作と考えることもできるイオンイオン比が反応前後で1:1ままであること確認すること
 Al3固溶よってZn2Zn変化することになるのでこれも原子価制御ある
 Zn2Al3イオン半径(Shannon&Prewitt)0.740.53Åでありイオン半径30%程度異なるためにAl31%程度しか固溶できないそれでも自然発生する不定比(10-6程度)起因するよりもはるかに多くの伝導電子結晶内に作り出すことができる

 原子価制御効果
 Al3なしのZnOの導電率室温10-1Sm-1
 Al:Zn=1:99固溶体導電率室温106Sm-1ほとんど良導体に近い導電率になる
補足
 ZnOの他にも番安定な酸化数よりもひとつ低い酸化数でもまずまず安定な金属の酸化物はn型
  半導体なるその場合電荷ひとつ多いイオン固溶すると導電率が上昇する括弧内は固溶イオン
  SnO2(Sb5)CdO(In3)In2O3(Sn4)SrTiO3(Sr2La3置換するとTi4Ti3なる)

 原子価制御Q&A
 Q1. NiOにAl3ZnOにLi固溶することが可能だとすればそれぞれn型p型の半導体なるか?
 A1. ならないNi2Zn2それぞれNi3ZnちょっとならなってもいいNiZn3
   断じてならないいう性質があるから
 Q2. 安定な酸化数がひとつしかない金属の酸化物例えばMgOやCaOLi2OやAl2O3固溶する
   半導体なるか?
 A2. ならないMgやCaは+2価のイオンしかならないもしあえて価数の異なるイオン固溶すると
   イオンイオン比がずれた固溶体ができる例えばMgOにLi2OやAl2O3固溶すると
   下式のように空孔きることが知られている
 VOは酸素空孔
 VMgはMgサイト空孔
   注意空孔きる場合については次週イオン導電体触れる

 n型無機固体の応用例
 透明電極液晶表示素子電極電気通してなおかつ可視光に対して透明でなくてはならないZnO
  SnO2In2O3などはもともと可視光に対して透明であるこれらにそれぞれAl3Sb5Sn4イオン
  固溶するとドナー準位きて導電率の高いn型半導体なるが透明性は保たれたままであるこの
  ような物質はガラスプラスチ上に膜の形で付けることによって透明電極なる
 ガスセンサーn型半導体非常に薄い膜にして両端に電極取り付け定電圧かける膜の内部に
  伝導電子あるのだが膜表面に吸着した酸素が伝導電子引きつけることによって伝導電子動き
  妨げられ導電率低い状態になる電流小さいしかしそこに可燃性ガスってくると吸着
  いた酸素が取り除かれて導電率がもとの高い値に戻る電流大きい定電流超えたらブザー鳴る
  ようにしたものが家庭用ガス警報機である