鷹山 (C)1996-2025 Copyright  データベースアメニティ研究所 Connected via IPv4
仁科辰夫教授 最終講義 2023.3.17 米沢キャンパス中示A

【ナレッジ】 CV測定による電解液の電気分解の電圧を知りたいのですが

ナレッジ
ナレッジ/エンジニア
研究テーマ
ナレッジ/鷹山
ナレッジ/C1
キーワード
♪Q&A-質問♪
●…
キーワード/検索/CV測定…
シラバス/検索/CV測定…
講義ノート/検索/CV測定…
論文/検索/CV測定…
山大図書館/CV測定…
● >ウィキペディア/CV測定…
旧バージョン(asp)
項目
題目CV測定による電解液の電気分解の電圧を知りたいのですが
リンク
-ナレッジ
親単元電池性能を支配する電極中のバルクと界面
説明
メニュー
シラバス/検索/CV測定…
講義内容/検索/CV測定…
講義ノート/検索/CV測定…
研究ノート/検索/CV測定…
ファイル/検索/CV測定…
研究テーマ/検索/CV測定…
論文/検索/CV測定…
書籍名/検索/CV測定…
雑誌名/検索/CV測定…
材料名/検索/CV測定…
>ウィキペディア/CV測定…

説明
----- quote -----
で、CV測定を行って、電解液が電気分解する電圧を知りたいのですが、実際測定しても大体の電位はわかるのですが、いまいちデータ-の見方がわかりません。下図は、作用電極にGC電極を使用してKClの溶液を測定しました。この図から、電気分解している電位の見方を教えて下さい。よろしくお願い致します。
----- unquote -----

と申されましても、egroups.co.jpのメールサーバ、添付ファイルは自動的に落としてしまうんです。そのため、どんな図になっているのか、わかりません。どうしましょう?
どこかのWebサーバにでも貼り付けていただければ、こちらから見に行くことはできますが…もしくは、egroupsのほうではなく、私の山形大のアドレスのほうに直接ファイルを添付したメールを送っていただくかしたほうが良いの
かもしれません。nishina@yz.yamagata-u.ac.jpです。

先のメールにて、添付ファイルが落ちているということを申し上げましたが、まぁ、私が適当に想像して解説を試みることとします。

分解電圧の測定ということですが、正直なところ、これは明快なものが定義されているわけではないのです。電極材料や電解質等のパラメータ以外の実験条
件を統一しておいた上で、まぁ妥当な線だろうという評価基準を定めてデータの蓄積を図るしかありません。事実、日本化学会編、化学者のための基礎講
座11、電子移動の化学-電気化学入門、渡辺正、中林誠一郎著、朝倉書店の122ページに表7.1 水の電解に関係する過電圧の概略値というのが載ってお
り、各種金属電極上での水素発生と酸素発生の過電圧が出ていますが、これは分解電流値が0.1 mA/cm2の時の値として出ています。

電位走引法(CV)で分解電圧を評価する場合、電位走引速度を50mV/sか100mV/sあたりに設定するのが一般的かと思います。このとき注意しなければならな
いのは、電極表面に存在する電気二重層容量への充電電流です。一般的な水溶液系の電解液の場合、電極表面の電気二重層容量は20μF/cm2と見積もって概算できます。これはコンデンサとして機能しますから、

q = CV, dq/dt = i = C dV/dt = 20 x 10^(-6) x 0.1 [A/cm2]

となりますので、100mV/sの時の電気二重層容量への充電電流は0.002mA/cm2と見積もることあできるので、上記の0.1 mA/cm2の分解電流が流れる時の電位を分解電位の概算値として規約するのは、電気二重層容量への充電電流は2%程度でほぼ無視できることになり、それほど悪くはない概算法だといえます。しかし、金属電極では酸化皮膜生成電流も流れたりするので、それらの挙動も踏まえて、規約値を決めたほうがいいでしょう。

こんな状況であるにもかかわらず、論文などを書いていると、審査員が無謀な要求をしてくることがあり、私もそれで苦しめられたことがあります。これは、リチウム電池用電解液系の分解電圧の話だったのですが、その時は、電流値の対数を取ってみました。電解液の分解電流は指数関数的に増加する場合がほとんどで、電流値の対数をとって電位に対してプロットすると、直線関係が得られます。電流にはこれ以外にも、二重層容量への充電電流や、電解液中の不純物が反応する残余電流があったりします。たとえば、二重層容量への充電電流が電位によらずに一定だとすれば、電流値の対数を電位に対してプロットした図は以下の3つの領域に分けられるでしょう。

低電位側
二重層容量充電電流 >> 電解液の分解電流
このときはプロットは二重層容量充電電流の一定値の
みが観測されるので、横一直線

中電位側
二重層容量充電電流 ≒ 電解液の分解電流
このときは二重層容量充電電流の一定値に、
それとほぼ同じ大きさの指数関数的に増加す
る分解電流が重なるので、グラフは湾曲する。

高電位側
二重層容量充電電流 << 電解液の分解電流
観測される電流のほとんどが、指数関数的に
増加する分解電流のみなので、グラフは電位
に比例した直線が得られる。

私の場合は、たまたまこのような関係を見出すことができたので、低電位側の直線と高電位側の直線の交点を分解電圧と論文中で規約して議論を展開し、審査員を黙らせることに成功しました。この論文は、日本の電気化学会の雑誌、Electrochemisry誌に日本語で掲載した論文です。『マイクロ電極を用いる
有機電解液と金属の安定性の評価』、王 献明、仁科辰夫、内田勇、Electrochemisry, Vol.67, No.2,145-150 (1999) というものです。これが参考になるかもしれませんね。

まぁ、分解電圧に関するものは、こんな曖昧なものなんですよ。

ほかにもありましたら、ご協力できると思いますが、込入った話になると、メールでは難しいかもしれませんね。そんな時は、押しかけてきてもWelcome
です。山形大とC1ラボは開かれた大学であり、研究室ですから。(^^;;;