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説明 |
-----Original Message----- 子供から質問されたがわかりません。尚、子供は現在高校3年 生です。理系志望です。 | XXXX喧嘩になりました。 ----- unquote -----
うーむ。喧嘩ですか…(^^;;;; 自己主張というものを ゴリ押し して無理に認めさせようと すると、こういう事態に陥りますね。研究なんて仕事をしてい ると、自分が実験してでてきたデータは、結果という真実と して信用できますけど、巷の理論や理屈は、真に受けては いけないということが、身にしみて理解できる今日この頃で す。実験事実を説明するだけなら、まったく逆の結果がでて きても、それなりに合理的に思える説明を与えることはでき ますし、今までも予想した実験結果と逆の結果が出てきて も、もっともらしい理屈をつけて相手を納得させることができ ていますから。その点が理解できない研究者も多いのです けど…ご子息との喧嘩を楽しんでおられるようにお見受け いたしますが、やりすぎないよう、ほどほどにしておきましょ うね。
----- quote ----- 1. 融解点と気圧の関係は? 気圧が下がると融点・沸点・気化する温度が下がると答え ました。すると、どういう割合で変化するのか方程式を教え ろと言います......分からないのです。 ----- unquote -----
これは熱力学の話になります。相平衡の熱力学です。高校 の化学では勉強しませんね。大学でやる内容です。次の ような式になります。
(dP/dT) = ΔS/ΔV = ΔH/(TΔV)
という式です。これは、圧力Pと温度Tの相平衡線の傾きは、 相変化のエントロピー変化ΔSを相変化に対するモル体積の 変化ΔVで割った値になるというものであり、さらには相変化 のエンタルピー変化ΔHを温度Tと相変化に対するモル体積 の変化ΔVで割った値になるというものです。厳密にはΔHも ΔVもΔSも温度の関数ですから、単純な扱いはできないので す。
気-液平衡ですと、液体状態のモル体積よりも気体のモル 体積のほうがはるかに大きいので、液体のモル体積を無視 してもそれほど大きな誤差にはならないでしょう。そういう仮 定のもとで、上式を変形したものがClausius-Clapeyronの 式と言われるもので、以下の式となります。
(dP/dT) = ΔH/(TVg)
ここで、Vgは気相のモル体積です。気相のモル体積に対し て理想気体の状態方程式を適用できると仮定すれば、
Vg = RT/P
となりますから、Clausius-Clapeyronの式は、
(dP/dT) = PΔH/(RT2)
となります。気-液平衡ですと、ある程度の温度範囲ではΔH が一定として近似しても良いので、これを積分して解くと、
log P = - ΔH/(2.303RT) + constant
となります。まぁ、いろいろな仮定が入っているので、厳密 ではないのですが、大まかな挙動を見るためには、一次近 似としては十分でしょう。
固-液平衡ではどうなるでしょうか?固体や液体は、温度や 圧力が少々変化しても、モル体積はそれほど変化しません し、エントロピーもそれほど大きくは変化しません。従って、 モル体積の変化ΔVやエントロピー変化はΔSを一定として取 り扱っても、誤差は小さいと考えて良いでしょう。そうすると、
(dP/dT) = ΔS/ΔV = A
となります。ここで、A = ΔS/ΔVであり、定数として扱えること になります。この式を積分すると、
P = AT + constant = (ΔS/ΔV) T  + constant
となります。つまり、固-液平衡時の圧力は温度に大まかに は比例するということになります。多くの場合、固体から液体 に変化するとエントロピーは大きく増加しますが、モル体積は ほんの少しだけ増加します。従って、(ΔS/ΔV)は大きな正の 値となりますので、温度をほんの少し上げるだけで、その温 度で固-液平衡を実現するための圧力は一気に増加すること になります。言い換えれば、圧力に対して融点は大まかには 比例するが、融点の変化は圧力の変化ほどには大きくはな いということですね。
ところが、固-液平衡においては、水に関しては事情が異な ります。水の場合は、固体から液体に変化すると、モル体積 が減少するのです。氷よりも液体の水のほうが体積が小さい のです。ですから、ΔVが負の値となるので、圧力が小さくなる と、融点は高くなるのです。つまり、気圧が下がると、融点が ほんの少し上昇するんです。
しかし、この現象も大気圧付近の普通の氷の場合で、超高 圧状態では、普通の氷とは異なる結晶構造になってΔVが正 の値になるため、圧力に対して融点は大まかには比例する ようになります。でも、こんな状態って、2000気圧以上の超 高圧状態の話なんですけどね。
----- quote ----- 2. 気圧と表面張力の関係は? テレビを見ていて、無重力中の水を見て子供が気圧が下が ると表面張力が増すんだねと言いました。私は違うと言いま した。外からの圧力に対して反作用が考えられるから気圧 が増すと表面張力が増す...無重力中では、外気圧がゼロな 為に、表面張力は弱いが球体になるんだと答えました。 ----- unquote -----
両者とも間違っているように思う。無重力は大気圧でも実現 できますよ。ほんの少しの時間ですけど、自由落下すれば、 どんな圧力でも無重力状態になります。宇宙飛行士の無重 力訓練は、飛行機中で航空から重力加速度に合わせて落 下することで無重力状態を実現しています。つまり、無重力 状態では、重さというものがなくなってしまい、液体全体を 引っ張る力がなくなってしまうから、他者によって変形するだ けの力がない。しかし、液体は自分自身内部に引っ張る力 を持っている。表面張力ですね。表面張力のみが液体を変 形させる力になる。で、最小の表面積を与える形が球なん です。地上では、重力という外力が液体に加わり、表面張 力よりも重力のほうが強いので、重力に負けて形が変形し てしまうんですね。
表面張力の物理的なイメージとしては、分子間に働く引力の 問題だと考えてください。液体中の分子は、上下左右に沢山 の自分の分身ともいえる分子がいて、互いに引き合っていま す。しかし、気体と液体の表面では、液体側を見ると、液体中 と同じ数の分子がいて互いに引き合っていますが、気体側は 相手分子の数が極端に少なくなっています。つまり、気体側 に働く引力は小さくなるのです。その差が、表面の分子を液体 側に引き戻すように働くのです。これが表面張力です。つまり、
仕事/表面積の変化 = 表面張力
と定義できるもので、単位面積あたりのエネルギーで、熱エネ ルギーではなく、力学的エネルギーなんです。
この点を考えると、圧力が下がると、気体側に存在する分子 の密度が小さくなりますから、気体側に引っ張る力が小さく なりますね。だから、液体側に引っ張り込もうとする力はほん の少しだけ大きくなると考えて良いでしょうけど、微々たるも んですね。通常の圧力範囲では、表面張力は圧力によらず に一定であると考えていいんです。
液体中の分子は、周りに沢山ある分子と互いに引っ張り合っ ていて、落ち着いていられる。でも、表面の分子は、自分を 引っ張ってくれる分子が気体側半分がほとんどないに等し いので、その分、不安定な状態になっていて、液体中の分 子よりも高いエネルギー状態にあるんです。この点は、面白 い現象を引き起こします。小さな液滴を作るのは本当に難し く、大きなエネルギーを必要とするということで、ナノパーティ クルだとか、微小固体を作るのは大変なんだということ、微 小な水滴の蒸気圧は高くなる(蒸発しやすくなる)ってこと。 このために、過飽和蒸気だとかの現象が起こって、いったん 水滴ができると、一気に蒸気が液体になってくるという自然 現象や、空気中の塵を核として雲ができやすいんだという ことなんです。
液体の全体量に対して表面積が大きい状態を考えて見ましょ う。球を想定してみると、球の表面積は4πr2ですが、球の体 積は(4/3)πr3です。そこで、その比をとってみると、
4πr2/[(4/3)πr3] = 3/r
となります。球の半径rが小さくなればなるほど、全体量に対 する表面積の割合が反比例して大きくなっていくんです。そ の分、不安定でエネルギーが高い状態の分子の割合が増え るので、分子が気体中に飛び出していきやすくなるんですね。 だから、微小な水滴の蒸気圧は高くなるんです。
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