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3.イオン結晶の構造
3-1 イオン結晶の構造の理解のしかた (右図)イオン結晶の代表例、「NaCl型構造」。
<注意> NaClのような固体は、塩化ナトリウム(NaCl)という「分子」からできているのではない。無数のNa+イオンとCl-イオンが右図のように規則正しく並んだ「結晶構造」を作っている。
問: 右の構造を、言葉で表現したらどうなるだろう?
答: 「陰イオンが面心立方構造を作っており、陽イオンがその6配位サイトのずべてに入っている」 (陽イオンは6個の陰イオンに囲まれている) *NaCl型構造では陽イオンと陰イオンを入れ替えても同じことであるが、大抵の場合、「陰イオン の基本構造があり、そのすきまに陽イオンが入っている」と考えた方が便利なことが多い。 *副格子:特定の元素(イオン)だけで作られる構造。上の場合、陰イオンだけに着目すれば 面心立方構造が見えてくるが、その面心立方構造を陰イオンの副格子と呼ぶ。
<単位格子または単位胞(unit cell)>:向きを変えずに平行移動で並べるだけで、全体の結晶構造を作り出せ るような、「最小の単位」のこと。上の図はNaCl型構造の単位格子を表している。
*NaCl型構造を取る物質の例(カッコ内はShannon&Prewittのイオン半径、Å): Li+(0.88)   Na+(1.16)   K+(1.52)   Rb+(1.63)   Cs+(1.84)     F-  (1.19)  ○    ○   ○   ○      ○     Cl- (1.67)    ○    ○ ○   ○      × Br- (1.82) ○    ○ ○   ○      ×     I-    (2.06) ○    ○ ○   ○      ×
Mg2+(0.86)   Ca2+(1.14)   Sr2+(1.30)  Ba2+(1.50) O2-(1.26) ○ ○ ○ ○ S2-(1.70) ○ ○ ○ ○     Se2-(1.84) ○ ○ ○ ○     Te2-(2.07) × ○ ○ ○    *これらはすべてNaCl型構造をとるが、これをLiF構造やMgO構造などと呼んではいけない。
3-2 イオン結晶の構造を決定する因子(イオン半径比則)
大原則:イオン結晶は、①陽-陰イオン間の静電引力が最大に、陽-陽、陰-陰イオン間の静電反発力 が最小になるような構造をとる。
CsCl型構造:「陰イオンのつくる単純立方の体心に陽イオンが入る構造」 (陽イオンは8個の陰イオンに囲まれている) 問:CsClはNaClと同じく1-17族化合物なのに、なぜ NaCl型構造をとらないのだろう?NaClはなぜCsCl 型構造をとらないのだろう? 答:CsClの場合、NaCl型構造よりもCsCl型構造を取っ た方が静電引力が大きくなるから。NaClの場合、Cs Cl型構造を取ると陰イオン同士の静電反発力が大きく なってしまうから。これらは、イオン半径比を考える とすっきりと説明できる。 説明
①今、陰イオン(大きな円)がある規則構造をとっているとする。陽イオンのサイズがたまたま3個の陰イ オンにちょうど内接しているとする(上図(b))。このときr+/r- = 0.155である。このときには、静電引 力は満足している(陽イオンと陰イオンが接触できているから)。 ②もし、r+/r-が0.155よりも大きいような場合(上図(c))、陰イオン同士の反発力が小さくなるから、(c) の構造は(b)より安定であるといえる。 ③もし、r+/r-が0.155よりも小さい場合(上図(a))、陰イオン同士の反発力が大きくなりすぎるから、(a) の構造は不安定になる。 ④もしr+/r-が0.2247よりも大きい場合、平面内にある3個の陰イオンに囲まれているよりも、陰イオン を「4面体的に」周囲に配置するような位置(4配位サイト)に陽イオンが入ったほうが、静電引力をよ り大きくできる(d)。 ⑤r+/r-が0.414よりも大きい場合、陰イオンを6個周囲に配置するような位置(6配位サイト)に陽イオ ンが入ったほうがより安定になる(e)。 ⑥r+/r-が0.732より大きい場合、ちょうどCsClにおけるCs+のように、8配位サイトに入ったほうがよ り安定になる(f)。
r+/r-   0.155 < 3配位 < 0.225 < 4配位 < 0.414 < 6配位 < 0.732 < 8配位 
検証1:Na+, Cs+, Cl-のイオン半径から、 r(Na+)/r(Cl-) = 1.16/1.67 = 0.6946 → Na+は確かに6配位位置を好む。 r(Cs+)/r(Cl-) = 1.81/1.67 = 1.084 → Cs+は確かに8配位位置を好む。 *CsClの場合は、陽イオンが陰イオンよりも大きな特例。r(Cl-)/r(Cs+)の比をとっても、 Cl-は8個のCs+に囲まれた位置を好むことが分かる。
検証2:別な構造でもイオン半径比則はなりたつか? 例)閃亜鉛鉱(ZnS)型構造(右図参照) 「陰イオンの作る面心立方構造の4配位サイトの半分に 陽イオンが入った構造」 イオン半径比則の検証: r(Zn2+) = 0.70Å(Arlensの半径) r(S2-) = 1.73Å(Arlensの半径) r+/r- = 0.405   → Zn2+イオンはS2-イオンの 4配位サイトを好む
検証3:KClはNaCl型構造、CsCl型構造のどちらを取るだろう? r(K+)/r(Cl-) = 1.52/1.67 = 0.91。ここからだとCsCl構造をとりそうなものであるが、実際は NaCl型構造をとる。これは実はK-Cl間の結合に若干「共有結合」の性質が入りこんでいるためで ある(詳細には触れない)。このように、ときにはイオン半径からだけでは結晶構造を説明しきれ ないこともあるが、大抵のイオン結晶においては、「イオン半径比則」は成り立つ。
  ここまでのまとめ: ①イオン結晶は「陰イオンの作る規則構造がまずあり、陽イオンがそのすきまのどこかに入っている」 という表現方法をとると、構造を説明しやすい。 ②陽イオンが入る場所は、陰イオンの半径に対する陽イオンの半径でおおむね決まる。ある物質の結晶 構造は、イオン半径比の影響を大きく受ける。
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