4.14族元素
4-1 単体の構造と性質 ○ 炭素: ダイヤモンド(sp3混成)、黒鉛(sp2混成)、フラーレンなど。ダイヤモンドは非金属。黒鉛は類金属。 ケイ素: ダイヤモンド構造のみ。黒鉛と同じ構造の同素体はない。 「半導体」 ゲルマニウム: ダイヤモンド構造のみ。 「半導体」 スズ: 同素体あり(構造は複雑)。金属。 鉛: 金属。 … 周期表の下の周期ほど金属の性質が強まる。 【金属とは何か … 電気的意味、構造的意味、化学的意味とも若干ニュアンスが異なる】 1.性質:電気と熱を良く通す。高温ほどわずかに電気抵抗が増える。 2.構造:価電子の数よりも結合相手の数が多い構造 → 詳細は「無機固体化学(鵜沼)」で。 3.元素の性質:電気陰性度が比較的低く、正の酸化数を取りやすい。 【半導体とは何か … 純粋に電気的性質を表す言葉】 電気を通すが金属ほどは通さない。ほとんど通さないものもある。一般に高温ほど電気抵抗が下がる。 → 詳細は「無機固体化学(鵜沼)」で。
<問> なぜケイ素には黒鉛と同じ構造の同素体がないのか、理由を考察せよ。(ヒント:多重結合に関す る16族元素の項を参照) <問> ダイヤモンドにおけるC-C結合距離は154pmであるのに対し、グラファイト中のそれは142pmで ある。その理由を説明せよ(1996東大院理)。(ヒント:グラファイト中のC-C結合は、平均して何 重結合であると考えるべきか)
4-2 水素との化合物 ○ CH4(メタン)、SiH4(シラン)…以下、GeH4(ゲルマン)、SnH4(スタンナン)、PbH4(プランバン) これらは電気陰性度が高くないので-4の酸化数を嫌う。そのため、容易に酸化しやすい。SiH4やGeH4 は、エレクトロニクス部品や光ファイバーの製造過程で使用される(常温で液体であり、蒸留により高純度 化しやすいので)。 <問> CH4中、NH3中、H2O中のH-C-H, H-N-H, H-O-H結合角はそれぞれ109.47、107.2、104.5°で ある。角度がこのように小さくなるのはなぜか、考察せよ。 <問> CH4、SiH4、GeH4、SnH4の融点、沸点の順序を推定し、根拠とともに述べよ。また実際にそれら を調べよ。 ○ 炭素はカートネーションするので無数の炭化水素がある。ポリシラン、ポリゲルマンは、Si6H14、Ge3H8まで しかない。 → 結合の強さがC-C > Si-Si > Ge-Geの順だから(下の周期ほど結合は弱い)。
4-3 ハロゲン化物 ○ Si以下のハロゲン化物は、すべて水に対して不安定で、加水分解する。 SiCl4 + 2H2O → SiO2 + 4HCl → 電気陰性度の高いハロゲンによって、Siは電子を剥ぎ取られた状態(正電荷が高い状態)になり、容 易にH2OのOから攻撃を受ける。 ○ 炭素の塩化フッ化物はフロン(CFxCly)とよばれ、化学的に安定だが紫外線で分解。オゾン層を破壊する。 (i) CFxCly + 光 → Cl + CFxCly-1   (ii) Cl + O3 → ClO + O2   (iii) ClO + O3 → Cl + 2O2  …連鎖反応。 ○ テトラフロロエチレンの重合体(ポリテトラフロロエチレン、PTFE)はテフロン。耐熱性、耐薬品性に優れる。 ○ SnやPbは、SnCl2、PbCl2などの低酸化数のハロゲン化物も作る。 <問> SnやPbが低酸化数のハロゲン化物を作る理由を述べよ。
4-4 酸化物とオキソ酸 【炭素の酸化物】 ○ CO 一見、「 =C=O 」のように結合の手が余るので、化学的に活性であるかのように思ってしまうが、水 にもほとんど溶けず、極性もわずかで、比較的反応性に乏しい。ブレンステッド酸や塩基ではない。
Cの電子構造 Oの電子構造
電気陰性度の高いOから、Cへ(逆方向に)電子を貸すと、どちらも という電子構造になり、N2と同じ3重結合ができるようになる。(強い3重結合を作るために、一旦無理して O→Cに電子を貸すと考えればよい)すると、 C-≡O+ という若干極性を帯びた2原子分子になる。 結合電子対は、電気陰性度の高いOの方に引き寄せられるので、結局ほとんど無極性になる。 むしろ、分子軌道の考え方の方が理解しやすい(基本無機化学、p.44)が、分子軌道の構築の仕方は複 雑で、現時点では理解する必要はない。 ☆ COは、CにもOにも孤立電子対がある。このため、ルイス塩基として振舞うことが多い。
○ CO2         <問> CO2中のCはsp混成軌道を作っている。電子状態をこれまでの例(例えば硫酸イオン)にならって推定せよ。
CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H+ + HCO3- ⇔ 2H+ + CO32- CO2は水に溶けてブレンステッド酸として振舞うので、「酸性酸化物」と呼ばれる。 <問> これまでの授業に出てきた酸性酸化物を二つ取り上げ、ブレンステッド酸として振舞う化学反応式 を書け。 <問> CO32-イオン中のCはsp2混成軌道を作っている。その電子状態を類推せよ。
【ケイ素の酸化物とオキソ酸】 ○ ケイ酸 … H4SiO4という分子は(希薄溶液などの)特殊な条件でしか存在せず、つねに縮合酸として存 在する。組成はSiO2・nH2O(nは2以下の定まらない数)と考えるべき。二酸化ケイ素のブレン ステッド酸としての強度は非常に弱いが、アルカリと塩を作る(下式)ので、酸性酸化物として分 類される。 SiO2 + NaOH + 2H2O→ NaH3SiO4 + H2O など ☆ ケイ酸塩(p.89以降):多くの鉱物を構成する主要成分。縮合酸の縮合のしかたによって、多種のケイ 酸に分類される。また、粘土鉱物の主成分なのでオールドセラミックス(いわゆる陶磁器)にも使われ る。ケイ酸塩の化学は複雑であるうえ、工業的にはセメント工業以外にはあまり関係がないので、本 講義の範囲外とする(ちなみに無機固体化学でもケイ酸塩は扱わない)。
【スズ、鉛の酸化物と両性酸化物】 ○ 酸とも塩基とも反応して、両方の水溶液に溶ける酸化物を「両性酸化物」という。 (塩基性酸化物の代表:NaOH。) ⇒ 金属の性質の強い元素の酸化物ほど塩基性酸化物になりやすい。 例 SnO2  +  4HCl  →  Sn4+ + 4Cl- + 2H2O SnO2  +  2NaOH  → 2Na+ + SnO32- ☆両性酸化物を作る元素:アルミニウム(Al),亜鉛(Zn),スズ(Sn), 鉛(Pb)など。 金属と非金属との境目に存在する元素が両性酸化物を作る。また、CrO3(酸性)、Cr2O3(両性)、CrO(塩基性)などのように、酸化状態でも異なり、一般に高い 酸化状態の酸化物は酸性である。
4-5 炭化物、ケイ化物 ○ ファインセラミックスとして工業的に重要なものが多い。ここでは下記の項目を暗記する必要はなく、印象 にとどめておく程度でよい。融点が高く、非常に硬いものが多い。 炭化珪素(SiC) … 高強度、高耐熱性の半導体。研磨剤、セラミックエンジン部材など 炭化タングステン(WC) … 超硬合金。かつてのスパイクタイヤのピン、切削工具など。 ケイ化鉄(FeSi2) … 熱電材料(廃熱から電気エネルギーを回収する材料)など。 ケイ化モリブデン(MoSi2) … 高耐熱性導電体。炉の発熱体など。  5. 13族元素
5-1 単体の構造と性質 ○ ホウ素: B12の正20面体を単位とする固体。非金属。天然には単体では産出しない。 アルミニウム以下、金属。
5-2 水素、ハロゲン、酸素との化合物 ☆ 13族元素は価電子3個しかないので、いわゆるオクテットを形成できないことが多い。 ⇒強いルイス酸として働く場合がある。
○ B2H6 ジボラン: オクテットではない化学結合の例として。 1個のHが2個のBと結合している。 ⇒「3中心2電子結合」
○ BとAlのハロゲン化物: ルイス酸の典型として。 F3N: + BF3 → F3N-BF3   ルイス酸・塩基反応の例によく出される。どちらが酸か? ⇒ 有機合成(フリーデル・クラフツ反応:ベンゼン環へのアルキル基の置換)におけるルイス酸触媒
○ ホウ酸: 水酸化物とオキソ酸の境界にある化合物。慣例的にオキソ酸的な名前がついている。 H3BO3 + H2O → H+ + [B(OH)4]- 1価のブレンステッド酸として振舞う。 *多価アルコールなどが共存すると、酸としての性質が強まる。
5-3 ホウ化物 ホウ化マグネシウム(MgB2): 2001年に日本人が発見した超伝導体。金属のように加工ができるので実用 化への期待が高まっている(臨界温度約40K)。 ホウ化ランタン(LaB6): 電子線放射の機能。電子顕微鏡のフィラメントとして。
演習問題 1.ダイヤモンド、エチレン、ベンゼンにおけるC-C結合距離はそれぞれ154pm、135pm、140pmであるという。グラフ ァイト中のC-C結合距離は142pmである。グラファイト中のC-C結合距離がこのような長さになる理由を説明せ よ。 2.CO2とSiO2の構造が異なる理由を説明せよ。 3.ジボランのB-H結合には119.2pmと1329pmの2種類ある。このような違いが生ずる理由を述べよ(1996東大院 理) 4.金属アルミニウムと水酸化ナトリウムとの化学反応式を書け。 5.ホウ素やアルミニウムのハロゲン化物が強いルイス酸として振舞う理由を述べよ。 6.金属アルミニウムは塩酸には溶けるが硝酸には溶けない。その理由を述べよ。 7.一酸化炭素は金属イオンに配位して錯体を作りやすい。その理由を述べよ。 8.アルミニウムは+3価のイオンになりやすいのに対し、タリウム(Tl)は+1価のイオンになりやすい。その理由を述 べよ。 9.ホウ酸(H3BO3)の結晶はp.82にあるような2次元の構造をとる。なぜそのような2次元構造をとるのか、ホウ素の 電子状態を推定して説明せよ。
宿題
1.授業の範囲の<問>と上の演習問題をすべて解答せよ。
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