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【エネルギーサイクル】 <この項目のポイント> ① 格子エネルギーという概念に触れる。 ② 電極電位、酸化力・還元力、化合物の溶解度など、一見「そのまま受け入れるべき暗記項目」と思われる性質も、素過程に分ければ傾向を説明することができることを理解する。
1.格子エネルギーとBorn-Haber サイクル <準備> 金属ナトリウムを塩素ガスにさらすとどのような現象が起こるか。 <準備> 高校では、ナトリウムは+1価の陽イオンになりやすく、塩素は-1価の陰イオンになりやすいと教わっ た。Naは自発的にNa+イオンになるのかどうか、イオン化エネルギーの値を調べて答えよ。 Na → Na+ + e- ΔH = 495.4kJ/mol (吸熱) Cl + e- → Cl- ΔH = -348.8kJ/mol  (発熱) NaCl結晶はNa+イオンとCl-イオンからできている。また、金属ナトリウムと塩素ガスを反応させると発熱的に NaClができる。しかし、両方の元素からそれぞれのイオンを作る過程だけを考えると、差し引き「吸熱」ということ になってしまい。事実を説明できない。 ⇒ Na+イオンとCl-イオンが近づいて結晶を作るとき、イオン結合ができることによる安定化の分の発熱が 起こっている。
ばらばらの陽・陰イオンから結晶ができるときの発熱量(の反対符号) = 結晶をばらばらのイオンに分解する仕事に要するエネルギー(=格子エネルギー)     ☆ 格子エネルギーは実験で測定することができない。
   NaClの生成過程を次のふたつのルートに分けて考える。
① 金属ナトリウムと塩素ガスとの反応 Na + 1/2Cl2  → NaCl           標準生成エンタルピー(反応熱の反対符号)ΔHf = -411.1kJ/mol
    ② 架空の生成過程 Na(金属) → Na(蒸気) 昇華熱 ΔHsub = 107.8 kJ/mol            1/2Cl2 → Cl 結合解離エネルギーの半分 1/2DCl-Cl = 121.3 kJ.mol            Na(蒸気) → Na+ + e- イオン化エネルギー EI = 495.4 kJ/mol        Cl + e- → Cl- 電子親和力の反対符号 -EA = -348.8 kJ/mol              *Cl-ができると発熱が起こる。系はその分エネルギーを失うので、マイナス符号がつく。 Na+ + Cl- → NaCl 格子エネルギーの反対符号 -UNaCl = ?
①、②のどちらの過程でNaClができても、エネルギー収支は等しいはず(ヘスの法則)。 したがって、 ΔHf = ΔHsub + 1/2DCl-Cl + EI -EA -UNaCl        数値を代入すると、 UNaCl = 786.8 kJ/mol となる。
【補足】 格子エネルギーを求める方法はもうひとつあり、基本無機化学p.96~99に記されているように結晶構造 から計算する方法である(詳細は無機固体化学で学ぶ)。計算で求めた値と、Born-Haberサイクルで求 めた値は、よく一致する。
2.電子親和力と酸化力の矛盾 <準備> 塩素の電子親和力はフッ素のそれよりも大きい(塩素の方が陰イオンになるときの発熱が大きい)にも かかわらず、フッ素ガスの方が塩素ガスよりも酸化力(相手から電子を奪う傾向)が強い。それはなぜ か。
① 1/2X2(気体) → X(原子) 結合解離エネルギーの半分 1/2DX-X ② X(原子) + e- → X-(気体) 電子親和力の反対符号 -EA ③ X-(気体) → X-(水和イオン) 水和熱の反対符号 -EH
ハロゲンガスで水溶液中の物質を酸化すると、ハロゲンは水和陰イオンになるから、結局酸化力の強さ(酸化 電位)は、1/2X2 → X- になるエネルギー(正確にはエンタルピーΔH、熱量)に相当する。
塩素の場合 1/2DCl-Cl = 121.3、 -EA = -348.8、 -EH = -381 (kJ/mol)だから 合計 -609kJ/mol フッ素の場合、それぞれ 79.5、-333、-515だから                         合計 -769kJ/mol フッ素(F2)のほうが、より水和F-イオンになりやすい(酸化力が強い)ということになる。 この過程を考えると、F2の結合解離エネルギーが弱いことと、水和エネルギーが大きいことが強い酸化力をも たらしていることがわかる。
*水和エネルギー: 水中のイオンに対して、水分子がそれを取り囲むときの発熱量。小さいイオンほど強く水 分子をひきつけるから、水和エネルギーが大きくなる。
【注意と補足】 ある反応の起こりやすさは、本来はΔHではなくΔG(= ΔH-TΔS)で判断すべきものである。しか し、上の例や下の例のように、エントロピー変化(ΔS)の程度にあまり差がないときには便宜的にΔHで比較す ることも可能(すなわち、発熱が大きいほど反応が進行しやすいと便宜上考える)。 ΔHの正負(大小)だけで反応が進行するかどうかを判断することは、本来できない。たとえば、食塩は吸熱し ながら水に溶ける(ΔH > 0)が、このときにはエントロピーがとても大きくなる(ΔS >> 0)なのでΔG < 0になり、 食塩の溶解が進行する。すぐには理解できないかもしれないが、熱力学の感覚は次第に身についてくる。
3.標準酸化還元電位とイオン化エネルギーの矛盾 <準備> ZnとCuの標準酸化還元電位は、それぞれ-0.76、+0.34Vである。M2+を作るためのイオン化エネルギー はそれぞれ2640、2703kJ/molであってそれほど違わないのに、かたや水素よりもかなり卑であって、か たやかなり貴である。どうして標準酸化還元電位がこれほどまでに違うのか。
標準酸化還元電位は、金属とそのイオンとの溶解平衡の傾きやすさ(金属がイオンになりやすい度合い)ということなので、以下のような過程に分けて考えることができる。 ① 金属 → 金属原子 昇華熱 (Zn:131   Cu:338kJ/mol) ② 金属原子 → 2価イオン イオン化エネルギー (Zn:2640 Cu:2703)  ③ 2価イオン → 水和2価イオン 水和熱 (Zn:-2118  Cu:-2172) Znは合計+653kJ/mol、Cuは合計+869kJ/molとなる。 Znは、その差-216kJ/mol分だけイオン化しやすい。このことが標準酸化還元電位の差になって現れている。 この過程を見ると、昇華熱、すなわち金属の結晶構造の安定さの度合いがZnとCuの標準酸化還元電位を支配していることがわかる。金属結晶の結合の強弱については、現段階では理解が難しいので省略するが、少なくともこの程度まで問題を掘り下げて考えることが可能になることを理解すること。
<問> 1族元素の標準酸化還元電位を比較すると、 Li:-3.04 Na:-2.71 K:-2.92 Rb:-2.99  Cs:-3.02となっている。 ① Na以下について考えてみると、イオン化エネルギーがNa→…→Csの順に低くなる(イオン化が容易 になる)順に標準酸化還元電位が負に大きくなっている。しかしなぜかLiだけがその傾向から外れて いる。その理由を考察せよ。
<問> ハロゲン化水素HXの酸の強さを考え直してみよう。 水中の解離していないHXがH+とX-に分かれるのが酸解離であるが、これを下記のように分ける。 ① HX(水和) → HX     脱水和 (水和の逆過程 HF:50、 HCl:17、 HBr:21kJ/mol) ② HX → H + X         結合解離(エネルギー HF:567、 HCl:428、 HBr:363) ③ H → H+ + e- イオン化(1312kJ/mol) ④ X + e- → X- 電子親和力(逆符号では F:-328、 Cl:-349、 Br:-325) ⑤ H+の水和 水和熱(-1127kJ/mol) ⑥ X-の水和 水和熱 (F-:-474、 Cl-:-340、 Br-:-321) HX → H+(水和) + X-(水和)の過程の発熱量が大きい(ΔHが負に大きい)ものほど酸解離しやすい。 上の数値を全部足して、ΔHの値を比較せよ。
宿題
1.プリント中の<問>をすべて解答せよ。
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