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-----Original Message----- 今、大学の実験で塩橋を使って電位差を測っているのですが 、塩橋の役割というか、塩橋と溶液間との間で起こっているこ とが、どういうことなのかよく理解できません。+イオンが増 える溶液にはCl-が、-イオンが増える溶液にはK+が流れ ていくのでしょうか。 ----- quote -----
電位差を測っているとしたら、理想的な状態は、系に電流を 流していませんね。平衡電位の測定ならば、アノードもカソー ドも、電解反応や電池反応は進行していない状態です。
電気分解や電池反応で電流を流しているのならば、溶液中 にはイオンが流れます。電子は電解液中を流れません(昔流 行った溶媒和電子なんて特殊な場合を除く)。電子は、外部 回路を通して電極間を流れて行き、アノードで発生した電子 は、外部回路を通してカソードに流れて行き、カソードで消費 されます。このとき、アノードで電極反応によって生成する電 子の数と、カソードで消費される電子の数は同じです。電解 液の中は、イオンが流れて行きますが、カチオンも動くし、ア ニオンも動きます。そのときに、カチオンが動きやすいのか、 アニオンが動きやすいのか(輸率ですね)によって、電解液中 での電気を運ぶ割合というものが変わります。そのときでも、 電解液中では、どこでも電気的に中性になるという条件がほ とんど成立します。
そこで、極端な場合として塩橋の代わりにアニオン交換膜で 仕切ったダニエル電池を考えてみましょう。ダニエル電池は
Zn | Zn2+, SO4 2- || Cu2+, SO4 2- |Cu
Cu2+ + 2e → Cu Zn → Zn2+ + 2e
という電池です。電池反応の進行に伴い、Cu電極のほうで は還元反応が、Zn電極のほうでは酸化反応が進行します。 また、アニオン交換膜の中を流れるイオンはアニオンだけで す。カチオンは通らないので、カチオンの輸率はゼロになりま す。電解液中のアニオンは、アノード側、カソード側ともに硫 酸イオン SO4 2- です。ですから、この SO4 2- イオンだけ が、アニオン交換膜を移動できることになります。
さて、電池反応が進行すると、カソードではCu2+が消費され てカチオン不足が生じ、アニオンの数のほうが瞬間的に大き くなると考えましょう。アノードでは逆にZn2+が生成してカチ オン過剰状態になります。このような状態になると、カチオン 交換膜を挟んでカソード側は全体的に負に帯電し、アノード 側はプラスに帯電した状態になります。そうすると、アニオン 交換膜を挟んで、負に帯電したカソード側からプラスに帯電し たアノードに向かって、静電効果によってアニオン交換膜中 を SO4 2- イオンが移動します。その結果、カソード側ではア ニオン濃度が減少し、負の帯電は解消されて電気的中性条 件が満足されます。アノード側では、アニオンの数が増える ため、結果としてプラスの帯電が解消され、電気的中性条件 が満足されます。こうして、電池反応中で、電解液(アニオン 交換膜)中をアニオンが流れることにより、電解液中を電気が
流れて、外部電子回路を通して電子がアノードからカソードに 流れて、目出度く回路が成立します。
さて、この結果、どういうことが起こるか。アノード側ではZnSO4 の濃度が増加し、カソード側ではCuSO4の濃度が減少します。 SO4 2- の濃度がアノード側とカソード側で異なりますので、ド ナンの膜電位が生じることになり、電池反応に寄与する過電 圧分を減少させることになりますね。しかし、Zn2+イオンが膜 を通ってカソード側に行ってしまうと、Cuの析出よりも先にZnの 析出が起こってしまいます。これは避けたい。似たような話は、 アノード側の電解液とカソード側の電解液が混じってしまうと、 電解液中で自発的に酸化還元反応が進んでしまうような場合 も、似たようなもんで、避けたいですよね。でも、膜電位の発生 は防ぎたい。どうしたら良いでしょうか?永久とも思えるような 長時間ではなく、実験の間だけというような、ある程度もてば 良いという条件で使用できるのが、塩橋と支持電解質の使用 です。
支持電解質と塩橋には、KCl溶液を良く使います。これは、K+ とCl-の輸率がほぼ同じで、液間電位(拡散電位)が発生しにく いからです。電池反応によってアノード側の正電荷量が増え、 カソード側で負電荷量が増えても、大量にあるKClのCl-がちょ ろっとアノードに移動し、K+がちょろっとカソードに移動し、つい でに塩橋の中にアノードからちょろっとカチオンが入り、カソード からちょろっとアニオンが塩橋の中に入っていっても、塩橋は長 いから、アノード側とカソード側のイオンが互いに混じることは ないでしょう。また、支持電解質や塩橋の中のKClが大量にあ れば、電解液中や塩橋の中では、KClがほとんどの電気を運ぶ ことになるので、イオン強度の差もほとんど出来ないし、液間 電位も無視できるし、いいことばかりじゃん。支持電解質がNaCl だったりすると、Cl-のほうが動きやすいので、その輸率の大き さに従って、Cl-が運ぶ電気の量が増えますね。
もう一つ、支持電解質を使う理由があるんです。電解液中のイオ ンの活量ってのは、イオン強度で決まるんです。だから、電極反 応に寄与するイオンよりも、大量のKClが支持電解質として溶け ていれば、イオン強度はKClの濃度で決まってしまうから、少しく らい電極反応に寄与するイオンの濃度が変わっても、活量係数が 変化しないんですよ。ということは、電極反応に寄与するイオンの 濃度を活量として扱っても、オッケーってことになるんですよ。
あ、それから、カチオンが増えるとか、アニオンが増えるとか、ある 一部の局面だけで考えないで、全体的に見通してくださいね。ア ノードでは、酸化反応が進行するので、瞬間的にはプラスの電荷 量が増え、カソードでは還元反応が進行するので、瞬間的には負 の電荷量が増えます。これが、上に述べたように、電解液中をイオ ンが移動して電気が流れ、電解液の電気的中性が保たれるんで す。それに、KMnO4ってカチオンが増えますか?MnO4 - って強 力な酸化剤ですけど、酸化剤ってのは自分が還元して、相手を酸 化するってことですよ。硫酸酸性溶液中でのMnO4 - の還元反応 って、
MnO4 -  +  8H+  +  5e → Mn2+ + 4H2O
だから、電解液中の正の電荷量は確実に減ってますよ。
----- quote ----- また、やはり食塩水などでもほぼ同じ電位差が表れるので すが、輸率を考えると、KClの方が良いのでしょうか? ----- unquote -----
どのような実験系を作成されているかがわからないのです が、一般的にはKClを使うほうが良いですね。測定している 起電力の大きさに対して、液間電位のほうが遥かに小さけ れば、見かけ上の測定電位はほとんど同じになるでしょう。 ちなみに、NaCl | KCl 溶液間の液間電位は、両塩の濃度 が同じ場合で 4.36 mVになります。ヘンダーソンの式から の計算値です。
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