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仁科辰夫教授 最終講義 2023.3.17 米沢キャンパス中示A

【キーワード】 格子エネルギー


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ID⇒#761
キーワード格子エネルギー
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11.格子エネルギー

1.格子エネルギーとは
  <準備1> 次のみっつの状態のうち、最も安定な状態はどれか?
     ①室温で、真空中にNa+イオンとCl-イオンがバラバラに浮遊している。
     ②室温で、塩化ナトリウム結晶ができている。
     ③室温で、金属ナトリウムと塩素ガスが出会おうとしている。
  <準備2> 水素分子(H2)がある。これを2個の水素原子にばらばらにするために要するエネルギーを何というか?
  <準備3> 2個の水素原子が反応して水素分子になるときに放出するエネルギーは、準備2のエネル
        ギーより大きいかそれとも小さいか?
  <準備4> 炭素が燃えたときの系全体のエンタルピー変化(⊿H)の符号は正か負か?

 ☆ 格子エネルギーとは、結晶を構成イオン原子)にばらばらに分解するために要するエネルギーである。これが大きいほど、結晶が安定だということになる。

 金属Naと塩素ガスを接触させると、激しく発熱してNaClができる。NaClはNa+とCl-イオンからで
 きている。それなら、それぞれの構成イオンを作るところだけを考えると
    Na → Na+ + e-   ⊿H = 495.4kJ/mol(吸熱)…イオンエネルギー
    Cl + e- → Cl-    ⊿H = -348.8kJ/mol(発熱)…電子親和力の逆過程
 差し引き「吸熱」ということになってしまって、NaClが発熱的に生成しないことになってしまう。しか
 し、実際にはNa+とCl-はばらばらのイオンではなく「結晶」に組み上げられる。このときに安定化の
 ためのエネルギーを発熱する(格子エネルギー)。

2.格子エネルギーの求め方
 ①計算で求める方法
  <準備5> 右のようなイオン間に働くエネルギー①と②はどんな成分
        からなっているか?
   答:①は静電引力ポテンシャルと近接反発ポテンシャルの合計
     ②は静電斥力ポテンシャルと近接反発ポテンシャルの合計
  ☆ ここでは例としてNaCl結晶の格子エネルギーを計算してみる。











   まず、2個のイオンが距離dだけ隔たっているとき、ポテンシャル(V)は
     (異符号ならマイナス、同符合ならプラス)である。今、上の図の1個のNa+イオ
  ンに着目し、最も近いCl-イオンまでの距離をdとすると、dの距離に6個のCl-(引力)、√2dの距
  離に12個のNa+(斥力)、√3dの距離に8個のCl-(引力)… 以下ずっと続く。
   すべて合計すると、
     となる。
  上の式の括弧の中は、数学的に計算の順序を変えるなどすると収束し、1.74756という値になる。
  これを「塩化ナトリウム型のマーデルング定数(Madelung constant)」という。マーデルング定数は結 
 晶構造にのみ依存する。(物質が異なっても、結晶構造が同じならマーデルング定数は同じ)

   結晶構造   NaCl型   CsCl型   閃亜鉛鉱型   螢石型   ウルツ鉱型
 マーデルング定数     1.74756    1.76267    1.63806       2.51939   1.64132

  すなわち、アボガドロ数をN、マーデルング定数をMとすると、静電ポテンシャルだけの総和(VL)は、
       となる。
  つぎに、近接反発ポテンシャル(VR)を考慮する必要があるが、これは定式化が難しいため、静電ポテン
 シャルと近接反発ポテンシャルを一緒にしたもので良く知られたもののひとつ(経験式)がBorn-Mayer
 式と呼ばれるものである。次式にはすでに近接反発ポテンシャルの補正が組込まれており、U0が格子エ
 ネルギーに相当する。
        
  ここでρは31.0~38.4pmの値をとるが、ハロゲン化アルカリでは34.5pmである。

  Born-Mayer式をさらに簡単にしたものが下のKapustinskiiの式である。
        ここでνは化学式あたりのイオン数。NaClなら2。
  NaClについて計算すると、d=281pmなので、Born-Mayer式とKapustinskii式からそれぞれ759, 758kJ/mol(発熱)という値が得られる。
 
 ☆ 結局化学式がわかれば格子エネルギーを見積もることができるわけであるが、そこに至るプロセスを
   一度理解していただきたい。

 ②実験値から求める方法(ボルン・ハーバーサイクル)
  これには右のサイクルを想定する。
  すなわち、金属Naと塩素ガスからNaCl
 が生成するエネルギー(⊿H)は、NaとCl2を
 原子にし、イオンにし、そして結晶にするという
 ルートを経たエネルギー収支と一致するという
 ものである。
  ⊿H = ⊿Hsub + EI + 1/2DCl-Cl - EA - UNaCl
 ここで、⊿HsubはNa金属の昇華エネルギー
 EIはイオンエネルギー、DCl-ClはCl2の結合
 (解離)エネルギー、EAは電子親和力(符号に
 注意)、UNaClはNaClの格子エネルギー(符号に注意)である。NaClの場合(単位はkJ/mol)⊿H=-411、
 ⊿Hsub=107.8、EI=495.4、EA=348.8、DCl-Cl=242.6だから、UNaCl = 786.8kJ/molが得られる。計算
 で求めた値との差は5%程度であり、非常に良いというべきである。

3.格子エネルギーの意味
 NaClもMgOもどちらもNaCl型構造の物質であるが、NaClは水に溶け易いのに対し、MgOは全く溶けない。これはMg2+とO2-間の結合が強い(その分格子エネルギーが高い)ことに起因する。このように物質の性質を理解する上で重要な概念のひとつである。また、電気陰性度の実験的測定は非常に困難であるが、格子エネルギーを計算できればボルン・ハーバーサイクルから電気陰性度を計算することもできる。
 (そのほか、他大学の大学院入試問題や公務員試験などでは格子エネルギー、マーデルング定数、ボルン・ハーバーサイクルの問題が好んで出される)



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