電気化学

電気化学

http://campus3.kj.yamagata-u.ac.jp/syllabus/2014/html/05_52255.html https://edu.yz.yamagata-u.ac.jp/developer/files.asp?url=/Public/52255/

  1. 電気と化学―電池と豆電球のつなぎ方と電流・電圧の測り方―
  2. セルの組立―電池式の書き方と電極の呼び方―
  3. 電気分解とファラデーの法則―銅クーロメーターと電気めっき―
  4. 電池の起電力―銀塩化銀電極とネルンストの式―
  5. 分解電圧―電力効率とターフェルの式―
  6. 工業製品への応用―アルマイト・エッチング・乾電池・ディスプレイ―
  7. 受講ノートの「いいね!」の集計と仕上げ

1. 電池と豆電球のつなぎ方と電流・電圧の測り方

とにかく安全第一。事故を起こしてケガをした人が最初に言う言葉。「すみません」事故はみんなが不幸になります。事故の原因の「知らなかった」をなくすためにも日ごろのコミニュケーションを大切にしよう。

サーバー室温度

回路計・オシロスコープの基礎知識

回路計の選び方

電気回路に出てくる受動素子の種類は電気抵抗(レジスタンス)、静電容量(キャパシタンス)、インダクタンスの三種類しかありません。

直流・交流回路の基礎知識

電池、スイッチ、豆電球を銅線で接続した図を実体配線図といいます。このように電流が流れる道筋を電気回路または回路と言います。 実体配線図を電気用図記号で表したものを回路図といいます。 電気用図記号はJISに定められています。

電池の記号は電池(セル)を図案化したものです。

AV
図 回路図

  1. 小林一也, 工業技術基礎 , 実教出版 , 直流・交流回路の基礎知識 , p.80, (2002).

物理量

化学実習の基本操作の基礎知識

廃液は保存します。

  1. 野村正勝・鈴鹿輝男, 最新工業化学―持続的社会に向けて― , 講談社サイエンティフィク , p.1 (2004).
  2. 小林一也, 工業技術基礎 , 実教出版, 回路計・オシロスコープの取り扱い方 , (2002).
  3. 山下正通、小沢昭弥、 現代の電気化学 , 丸善, , (2012).

2. セルの組立

サーバー室温度

電池式の書き方と電極の呼び方

化合物を表すのに化学式を使います。化学式には組成式やイオン式などがあります。

*  化学式
化学種 式の種類 凡例
分子式 H2O
水素 元素記号 H
水素分子 分子式(化学式) H2
硫酸アルミニウム 組成式(化学式) 3Al2(SO4)3
炭酸イオン イオン式(化学式) CO32-
ダニエル電池 電池式 Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu

化合物を化学式で表すように、電池を表すには電池式があります。電池式はアノードを左側に書くのが慣例です。 電池式の縦棒(|)は相と相との界面を表しています。

界面の厚みはないものとみなします。

Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu     ( * )

電池には電極があります。酸化が起きる極をアノード、還元が起きる極をカソードと呼びます。 以前はアノードを陽極、カソードを陰極と呼びましたが、正極と陽極がまぎらわしいのでアノードと呼びます。 アノードは電流が外部回路から流れ込む極です。カソードは電流が外部回路へ流れ出す極です。 アノード、カソードは電流の向きに注目した呼び方です。 それとは別に正極と負極という呼び方があります。 電位の高い極を正極、電位の低い方を負極と呼びます。 正極、負極は電位の高低に注目した呼び方です。

電気力線とセル定数

電気回路は電池の中で途切れているわけではありません。 電池の中で電流はイオンとしてアノードからカソードへ流れます。 電解液の中のイオンは 電界 E 〔V/m〕 によって F 〔N〕 を受けるからです。 このようにイオンが力を受けて移動する道筋を電気力線といいます。 電気力線は途中で途切れることもなければ交わることもありません。

同じ電解液であれば、抵抗は電極間距離に比例し、断面積に反比例します。 このときの電極間距離と断面積の比をセル定数と言います。

a = d / S     ( * )

表 セルの組み立てに関わる物理量
物理量 単位 凡例
電極間距離 d mメートル 電界の強さ=電圧÷電極間距離
電極面積 S へいほうメートル 電流密度は電流÷電極面積
セル定数 a 1/mまいメートル コンダクタンス=導電率÷セル定数


3. 電気分解とファラデーの法則~銅クーロメーターと電気めっき~

サーバー室温度

ファラデー電気分解の法則

ファラデー電気分解の法則を確かめるには電流を測定できないといけません。電流計は回路に直列に入れます。 過大な電流を流して電流計を破損する場合が多いので最近は電流計がついていない回路計があります。 電気量 Q は、 電流 I 時間 t をかけて求めることができます。 電気量 Q ファラデー定数 F で割ると 物質量 n を求めることができます。 まずは電流と時間を正しく測定してグラフにしてみましょう。

実測例

ファラデー電気分解の法則

表 電気化学でよく出てくる物理量
物理量 単位 凡例
時間 t sびょう
電気量 Q Cクーロン 電気量は電流×時間です
電流 I Aアンペア
電圧 V Vボルト

クロノポテンショメトリー ( CP )

バルクと界面

バルクとバルクが接している面を界面といいます。 バルクのキャリアには電子とイオンがあります。 異なるキャリアを持つバルクの界面では電荷移動が起きます。

銅クーロメーターと電気めっき~

ファラデー電気分解の法則を使って逆に電流計を較正することができます。 これをクーロメーターと言います。 銀クーロメーター が一般的ですが、銀は高価なため銅が銀のかわりに使われることがあります。

ゼムクリップを洗浄・乾燥し、めっき前のゼムクリップの質量を精密化学天秤で0.1 mgの桁まで読み取る。 0.5 mol·dm-3CuSO4電解液中で、ゼムクリップに通電し、きっかり3.0 mg銅めっきする。 めっき後のゼムクリップを洗浄・乾燥し、めっき後のゼムクリップの質量を精密化学天秤で0.1 mgの桁まで読み取る。めっき後とめっき前の質量差からめっきした銅の質量を求める。 めっきの 槽電圧 V 〔V〕 と通電電流は実際に測っているときに、TAに確認していただくこと(各4点)。 槽電圧は電池や電源の電圧ではありません! 電流計は回路に直列に接続します。

Pt | 0.5 mol·dm-3   CuSO4 aq. | Pt

  1. 野村正勝・鈴鹿輝男, 最新工業化学―持続的社会に向けて― , 講談社サイエンティフィク , p.243 (2004).
  2. 吉田卯三郎, 武居文助共著 物理学実験 , 三省堂 , p.243 (1940).
電卓

4. 電池の起電力~電位の測定とネルンストの式~ サーバー室温度

イオン化傾向と酸化還元電位

水は25度で1.23Vで電気分解します。

ネルンストの式

銀|塩化銀電極(基準電極)の作成とエレクトロメータの較正(こうせい)

電位の測定には 電位差計 を使います。 これはメートルブリッジと 標準電池 を組み合わせて被測定電池と電位が等しくなる抵抗値から電位を測定する装置です。 こうすることによって電流を流さずに電位を測定することができます。 電流を流すと電池の内部抵抗によって電圧が下がり正しい起電力が求まらなくなるからです。 逆に起電力が安定している電池は電位の較正に使うことができます。

【結果】2本の銀|塩化銀電極の電位差[V]、 ダニエル電池 の起電力の理論値[V]、Cuの単極電位[V vs.Ag|AgCl]、Znの単極電位[Vvs.Ag|AgCl]、電位数直線(横軸電位[V])と単極電位の差[V] 電気化学セルを組み立てて銀線を塩酸中でアノード酸化して1本だけ作ります。その作り方は次の通りです。銀線を紙やすりで研磨し、清浄な金属面を露出させます。その金属面を3M HNO3で前処理し、水洗いします。その電極で以下のセルを作成し、0.8mA/cm2で15分ほど電解し、表面に塩化銀を析出させます。電解セルには10mLビーカーを使います。転倒防止のため電解液を注ぐ前に底に両面テープを貼っておき、電解液を注ぎ終わったビーカーは実験台にしっかり固定します。電極はダブルクリップで固定します。

Ag | 0.1 mol·dm-3 HCl | Pt

ネルンストの式

ダニエル電池の起電力

Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu     ( * )

ネルンストの式を用いてできるだけ正確にダニエル電池の起電力を計算する。計算した起電力とダニエル電池を用いて、抵抗尺の目盛りを較正する(本来ならウェストン電池を用いるが、ウェストン電池は水銀やカドミウムを使用するため取り扱いに注意を要する。そこで、ここでは標準電池をダニエル電池で代用し、電位や電圧の概念を習得する)。摺動抵抗と電源には電池付き抵抗尺(NiCd電池×2)を用いる。 ダニエル電池の起電力を直接エレクトロメータ(後述のボルテージフォロア参照)に入力し、その出力が抵抗尺の同じ目盛りに対応することを確認することで、エレクトロメータの動作を確認する。(エレクトロメータはポッゲンドルフの補償法をオペアンプで電子的に瞬時に実現する装置と言える) 銀|塩化銀電極の標準電極電位を計算する*2,3)。塩化カリウム水溶液の濃度は、実測した室温から、添付資料より飽和濃度を求める。飽和塩化カリウム水溶液の濃度は非常に濃いので活量係数による補正が必要である。添付資料から活量を求めてそれを用いる*4)。以下のような電池を組み、その起電力を補償法およびエレクトロメータを用いて測定し、それぞれの単極電位の測定結果からダニエル電池の起電力を計算し、一致することを確かめる。 Cu|0.01 mol・dm-3 Cu2+||KCl|AgCl|Ag Zn|0.01 mol・dm-3 Zn2+||KCl|AgCl|Ag ?設問:参照電極の照合にはなぜデジタルテスターを用いてもよいのか? ?設問:うっかり亜鉛棒を硫酸銅につけると黒くなるのはなぜか?   Cu2+ + Zn → Zn2+ + Cu ?設問:デジタル式のテスターにはなぜ電池が必要か? 標準電池としてのウェストン電池はどのようにして作成するか?

AgCl + e- ↔ Ag + Cl-     (*)

表 固体の 溶解度
化合物 0 10 20 25 30 40 50 60 80 100
KCl 27.8 30.9 34.0 35.6 37.1 40.0 42.9 45.8 51.2 56.4

表 電気化学でよく出てくる物理量
物理量 単位 凡例
電極電位 V Vボルト
起電力 V Vボルト
活量 a


5. 分解電圧~電流の測定とターフェルの式~

節電するにはどうしたらいいか?電圧をかけると、電圧の低い間はあまり電流が流れない。電圧を増してゆくとある電圧から急に電流値が大きくなり電気分解が始まる。 そういうのを非直線抵抗といいます。 水は25度で1.23Vで電気分解します。 これを 理論分解電圧 と呼びます。 実際には理論分解電圧よりさらに電圧をかけなければ水の電気分解は起こりません。 これを 過電圧 E 〔V〕 と呼びます。 全過電圧は内部抵抗よる電圧降下(抵抗過電圧)や電気化学反応による活性化過電圧の和となります。

電圧 V /V 電流 I /A
図 (*) 分解電圧

サイクリックボルタンメトリー ( CV )

析出物質による過電圧の違い

【結果】電解液の種類による過電圧の違いを示す電圧-電流プロット、アノードの種類による過電圧の違いを示す電圧-電流プロット、カソードの種類による過電圧の違いを示す電圧-電流プロット 参考書より、理論分解電圧を求める。アノードとカソードに白金を用いて0.1 mol・dm-3 H2SO4, 0.1 mol・dm-3 NaOH、0.1 mol・dm-3 HClの電流電位曲線を測定し、分解電圧を求める。方眼紙へのプロットは測定と同時に行うこと。理論分解電圧と実測値から過電圧を求める。電流の測定にはカレントフォロアを、電圧の測定にはエレクトロメータを用いることを推奨する。

Pt | H2SO4 | Pt     ( )

Pt | NaOH | Pt

Pt | HCl | Pt

カソード側

Pt | H2SO4 | Pt

Pt | H2SO4 | Zn

Pt | H2SO4 | C

アノード側

Fe | NaOH | Pt

Ni | NaOH | Pt

C | NaOH | Pt

表 分解電圧の値
電解質 析出物質 分解電圧Vd/V
H2SO4 H2,O2 1.67
NaOH H2,O2 1.69

  1. 野村正勝・鈴鹿輝男, 最新工業化学―持続的社会に向けて― , 講談社サイエンティフィク , p.243 (2004).
  2. 吉田卯三郎, 武居文助共著 物理学実験 , 三省堂 , p.243 (1940).

金属の種類による過電圧の違い

鉄のボルタンメトリ


6. 工業製品への応用~アルマイト・エッチング・乾電池・ディスプレイ~

アルミニウムの陽極酸化(アルマイト加工)

【製品】美しく着色されたアルミニウム 試料極にアルミニウムワイヤを用いる。アルミニウムは測定直前に研磨後、0.1M NaOHでアルカリ前処理を行い、水で十分に洗浄する。電解液に0.1M H2SO4を用い、対極にアルミニウムワイヤを用いて一定電流10mA/cm2を通電し、電位時間曲線(クロノポテンショグラム)を測定する。電流値を監視し、常に一定になるように抵抗尺を操作する。カレントフォロアと電流分割器を使うか、後述設問のガルバノスタットを使うことを推奨する。そのときの電位をエレクトロメータで読み取る。アノード酸化が終ったら、加温したコンゴーレッド(50mg/10mL)、アニリンブルー溶液(50mg/10mL)に浸漬し、酸化していないアルミニウムワイヤと着色状態を比較する。またAl-PETフィルムを紙やすりで磨き清浄な面を露出させ、同様に染色加工し、メタリックピンクおよびメタリックブルーのフィルムを作成する。 Al/H2SO4/Al ?設問:電流値を一定にする操作を自動的に行うにはどのような回路を使えば良いか? ?設問:硫酸の替わりにアジピン酸アンモニウムやホウ酸を用いた場合にはどんな工業製品に応用できるか?1)

金属の腐食(エッチング加工)

【製品】メタリックなネームプレート 40wt%塩化第二鉄FeCl3水溶液を10mL調整し、さらに濃塩酸HClを1mL加えて腐食液とする。 Cu-PET、Fe-PET、Al-PETフィルムを適当な大きさに切り、紙やすりで研磨し清浄な面を露出させ、ビニールテープを貼ってマスキングする。 また染色したAl-PETではそのままビニールテープでマスキングする。マスキングを自分の好きな形(自分のイニシャルなど)を残して切り取る。 着色していない場合はPET面から字が読み取れるように左右反転してマスキングすると美しく仕上がる。マスキングされていない金属部分を腐食液で腐食溶解する。 腐食液を水洗いし、マスキングを剥がして水洗いし、乾燥する。黒ラシャ紙を台紙にしてメタリックネームプレートを作成する。突然激しい溶解が起きることがあるので、操作はドラフト内で行う。 またPETフィルムは弾力があり、溶液を弾き飛ばすことがあるので保護眼鏡などを着用して実験する。 ?設問:銅は鉄よりもイオン化傾向が小さいのになぜ塩化第二鉄によって腐食されるのか? ?設問:銅および鉄をエッチング加工して得た工業製品をそれぞれ挙げよ。

  1. 小林一也, 工業技術基礎 , 実教出版 , プリント配線の基礎知識 , p.101, (2002).

二酸化マンガンの還元(アルカリ乾電池)

【製品】発光ダイオードを明るく長持ち、 アルカリマンガン乾電池 正極活物質として、電解二酸化マンガンを用いる。活物質30mgにグラファイト30mgを良く混ぜ、 テフロン分散液を専用駒込めピペットで2~3滴加えて乳鉢上で良く混練し、 ラバー状とし正極合剤とする。正極集電体としてニッケル(Ni)を用い、 この集電体の先端に正極合材を落ちないようになすりつけて試料電極とする。 電解液に9M KOH5mLをビーカーに入れ、対極に亜鉛(Zn)を用いて電池を作成する。 この電池を2個直列繋ぎにし、並列繋ぎにした発光ダイオードを点灯させ、時間とともに電圧がどのように変化するかを記録する。 濃アルカリが眼に入ると失明の恐れがあるので保護眼鏡などを着用して実験する。

Ni | MnO2 ,C | KOH | Zn

?設問:取り出せたエネルギーは何Jか? それは活物質の量に対して何%か? ?設問:実用化されている電池の種類とそれらの電池を利用する工業製品をあげよ。     正極合材の調整(左図) 電解セル(中央図) 点灯したLED(右図)

エレクトロクロミズム表示デバイス(電気→色:出力デバイス)

7. 学生実験の解説

実験テキスト

テキストの閲覧

8. まとめと中間試験

後半9回
7.電解質溶液の性質と電気二重層
8.電気化学平衡とポテンシャルの概念、参照電極
9.電荷移動反応と定電位電解
10.サイクリックボルタンメトリー
11.回転ディスク電極を用いた電気化学測定
12.まとめと期末試験

教科書と参考書

テキスト:野村正勝・鈴鹿輝男, 最新工業化学―持続的社会に向けて―, 講談社サイエンティフィク (2004).
テキスト:小沢昭弥、現代の電気化学,丸善(2012).※電子書籍、生協にて取り扱い
テキスト:小林一也,工業技術基礎、実教出版 (2002).
参考書:中村英二、吉沢康和, 新訂物理図解, 第一学習社, (1984).
参考書:数研出版編集部, 視覚でとらえるフォトサイエンス物理図録, 数研出版 (2006).
参考書:実教出版,サイエンスビュー化学総合資料(新課程),実教出版,(2013).
参考書:木村優、中島理一郎, 分析化学の基礎, 裳華房 (1996).
参考書:P. W. Atkins [著]/千原秀昭, 稲葉章訳, アトキンス物理化学要論第5版, 東京化学同人 (1998).
参考書:鵜沼英郎・尾形健明, 無機化学, 化学同人 (2007).
参考書:A. J. Bard, L.R. Faulkner, “Electrochemical Methods”, 2nd Ed., John Wiley & Sons. (2001)

材料

a b d


山形大学大学院 理工学研究科
〒992-8510 山形県米沢市城南4丁目3-16
3号館(物質化学工学科棟) 3-3301
准教授 伊藤智博