エネルギー変換化学

エネルギー変換化学

0. アウトライン

1. エネルギーの種類と物質

帆船の時代~時計の発明~

再生可能エネルギー・・・といっても風力しかなかったこの時代、精度のよい時計が発明されました。 そして加速度や力、仕事といった概念が確立されました。 ニュートン力学の誕生です。

産業革命~蒸気機関の発明~

人類は石炭を燃やして動力を得る方法を発見しました。 熱力学の誕生です。

Q = T S     (1)

W = P V     (2)

電気~電池と発電機の発明~

19世紀初頭、 人類は電池と発電機を発明し、化学反応や動力から電気エネルギーを得る方法を見つけました。 電磁気学の誕生です。

E = Q V     (3)

製鉄の温度と電子の発見

さらに強い兵器を求めて製鉄の温度を正確に測ろうとします。 量子力学の誕生です。

禁断のエネルギー、原子力

究極のエネルギー原子力。原子核物理学の誕生です。原子炉一基あたりの発電量はおよそ 1,000,000kW です。


2. 電解工業と電気化学


3. 電池の起電力と分解電圧

電気化学 歴史的に 電池の起電力 E 〔V〕 と呼びますが電子の端子間電圧のことです。


4. 電気エネルギーと物質~電池の系譜~

ガルバーニ電池とボルタ電堆

ダニエル電池

エジソンの蓄音機にも採用された電池。セパレータが採用されています。

 (-) Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu (+)     ()

  負極: Zn Zn2+ + 2 e-     ( * )

  正極: Cu2+ + 2 e- Cu     ( * )

マンガン乾電池


5. 電池の内部抵抗と過電圧

電流を流していないときの電池の電圧を開回路電圧と呼びます。 電池に負荷を接続して外部に電流が流れると電池の電圧は低下します。 低下した分を電圧降下と呼びます。 電圧降下のうちわけは正極の反応過電圧、負極の反応過電圧、溶液の抵抗などです。 電池の内部抵抗は電圧降下と通電電流の傾きとで定義される。 電圧降下の内訳のうち反応過電圧は通電電流の対数に比例する成分であり、 通電電流に比例する成分は主に電池の電解液の溶液抵抗やアルミニウム集電体と合材の接触抵抗に起因する。

V = E - I R     ( 1 )

バルクと界面

溶液抵抗とセル定数

反応抵抗とターフェルの式

反応過電圧は電流密度の対数に比例します。電池に流れる電流が大きいとき、電流に比例する抵抗過電圧が支配的となります。 つまり内部抵抗は抵抗過電圧で決まります。 電池の内部抵抗はバルクに起因する溶液抵抗や界面に起因する接触抵抗があります。

誤解を恐れず大胆に言えば、界面での反応は指数関数になります。 電圧が微小で線形とみなせる範囲で一次近似したときの係数は 反応抵抗 R ct と呼び習わされています。 この意味での反応抵抗は電気抵抗とは単位の次元が異なります。 等価回路に反応抵抗を設定するときは面積で割る必要があります。

j = A e B η     ( 1 )

溶液抵抗 R Ω は電解液の抵抗率と セル定数 a 〔1/m〕 で決まります。 セル定数は断面積を 電極間距離 d 〔m〕 で割ったものなので、 電解液が同じなら 電極厚みやセパレータを薄くすれば溶液抵抗は小さくなります。

R Ω = ρ a     ( 0 )

接触抵抗

接触抵抗 R c 〔Ω〕 は集電体と合材の界面の 接触抵抗率 ρ c 〔Ωm²〕 と 接触面積 S c 〔m²〕 で決まります。固体間の接触の多くは点接触となるため接触面積が必ずしも断面積となるとは限りません。

R c = ρ c / S     ( 0 )

Zn | Zn2+ || Cu2+ | Cu     ()

内部抵抗 R


6. 二次電池とキャパシタ

キャパシタと分極

キャパシタはコンデンサ、蓄電器とも呼ばれます。誘電体を導体で挟んだ構造です。 電圧をかけると分極し、電気がたまります。 分極には金属バルクが分極する静電誘導、誘電体バルクが分極する誘電分極、 電解質が電極界面に集まる電気二重層、極性分子が配向する配向分極があります。 静電容量 C 〔F〕 は、面積に比例し、距離に反比例します。

C = ε S / d     ( * )

アルミ電解コンデンサ

タンタル電解コンデンサ


7. リチウムイオン二次電池の構造

リチウムイオン二次電池の構造

 (-) Cu | C | LiPF6 , C4H5O3 | C , LiCoO2 | Al (+)     ()

  負極: C6Li Li+ + C + e-     ( * )

  正極: CoO2 + Li+ + e- LiCoO2     ( * )

  • インピーダンスのセミナー

8. セラミックス材料~正極活物質と導電助材の働き~

活物質はイオン結合です。だから電子は流しません。でも・・・ 活物質が反応するときは電子とイオンの両方を供給する必要があります。活物質の奥のほうまで反応させるには固体中を物質輸送する必要があります。その駆動力とは・・・? 活物質と導電助材と電解液の接触稜線上で起きる電池反応の速度。電解液と導電助材がスピノーダル構造をとっているところへ活物質をどう配置するのがよいのか。活物質存在によるスピノーダル構造からドロップレット構造への遷移。スラリーの配合、分散から塗布乾燥の過程で何が起こるか。

正極活物質

電池の正極活物質、導電助材、コンデンサの誘電体などにはイオン結合を有するセラミックス材料が使われます。 電池の正極活物質は酸化剤です。酸素や塩素などを含む固体がよく使われます。

正極活物質

炭素材料

炭素材料(導電助材)

9. 金属材料~負極活物質と集電体の働き~

金属結合、金属結晶と電気伝導

負極材料

水溶液を電解液として使う電池では、保存時の自己放電を防止し、かつ起電力を大きくするため水素過電圧の大きな亜鉛、カドミウム、水銀、鉛などが使われます。 二次電池として使う場合にはデンドライドの析出を抑えるために直接金属を負極活物質とすることは少なく、合金にしたり酸化物を使ったり、インターカレーション反応を使ったりします。

集電体

リチウム二次電池のアルミニウム集電体について

アルミニウム 導電性 に優れ、密度も小さいためリチウム二次電池の集電体に使われます。 二次電池の集電体としては充電時の 耐食性 が重要であるが、 アルミニウム は電解液中の 六フッ化リン酸イオン と反応して不働態皮膜を生成します。

Al + 3LiPF6 → 3PF5 + AlF3+ 3Li+ + 3 e-     ( * )

j = A e B E     ( 1 )

R c = ρ c ( d + d0 )     ( * )

  1. 立花和宏、佐藤幸裕、仁科辰夫、遠藤孝志、松木健三、小野幸子,リチウム電池駆動用電解液中におけるアルミニウムの不働態化,Electrochemistry, Vol. 69, No.9, pp.670-680(2001).
  2. 正極内部抵抗から見るリチウムイオン二次電池正極材料の最適な組み合わせ 小野寺 伸也, 山形大学 工学部 物質化学工学科, 修士論文 (2015).

外装・パッケージ


10. 有機材料 ~リチウム電池の電解液~

電解液の電位窓と電池の劣化

電解液の分解は電流経路の寸断を引き起こし、電池の内部抵抗を増加させ、電池の劣化につながります。

*  溶媒
溶媒 略記号 沸点
/ °C
凝固点
/ °C
蒸気圧
/ mmHg
密度
/ gcm-3
粘性率
/ cP
電気伝導率
/ Scm-1
比誘電率
/-
双極子モーメント
/ D
許容濃度
100 0 23.8 0.9970 0.890 6×10-8 78.39
炭酸プロピレン PC 241.7 -54.5 1.2 1.195 2.53 1×10-8 64.92 4.94

  1. 有機エレクトロニクス用有機半導体材料を溶解した溶液の導電率と濃度の関係
    ○伊藤知之, 佐々木優, 本田千秋, 立花和宏, 仁科辰夫, 大場好弘,平成24年度 化学系学協会東北大会講演要旨集 (1).

11. 高分子材料 ~リチウム電池のバインダーやセパレータの働き~

リチウム電池にはバインダーやセパレータなど高分子材料が使われています。 一見、絶縁材料なので電池性能には無関係にも思われますが、実際には大いに関係があるのです。

バインダー

水分散系バインダーとしてアクリル系、SBR系、PTFE系などがあります。 また溶剤系バインダーとしてはPVDF系が有名です。 バインダーは接着剤や分散剤としての機能を兼ね備えています。 バインダー選びの際にもっとも注意すべき点は、過充電時における劣化への影響と、接触抵抗など内部抵抗への影響です。

セパレータ

分散剤

増粘剤


12. 化学工学とリチウム電池~分散・スラリーの作成と塗布乾燥~

溶剤系バインダーと水系バインダー

スラリーの設計にはレオロジーの制御が必要です。

粒子の分散と界面活性剤

合材スラリーの乾燥

電池材料の分散とスラリーの調整

粉体の混合と粒度分布


13. サイクリックボルタンメトリーによる電池やキャパシタの評価


14. 交流インピーダンス法による電池やキャパシタの評価

電池に交流インピーダンス法を適用する上で、非直線抵抗の取り扱い、界面の面積の取り扱い、反応に伴う系の変化の取り扱い、 を考慮します。

Z = R + j X

静電容量と誘電率、二重層容量

静電容量C〔F〕は電圧と電気量の比例定数。 電気量は電流の積分。誘電率は電界電界の強さE〔V/m〕と電荷密度の比例定数。 誘電率はベクトル。 等方性物質ではすべてのベクトルは等しいが、異方性物質では誘電異方性を持ちます。 バルクの分極には静電誘導と誘電分極、界面の分極には二重層容量と配向分極があります。静電誘導は金属、誘電分極は主にイオン化合物、二重層容量は電極と主に電解液中のイオン、配向分極は主に界面での極性分子によって起こります。

オシロスコープによる波形の確認

a b d